「フィットネス」が筋力や柔軟性、体力といった身体機能の向上を目的とするのに対して、
「ウェルネス」は身体だけでなく、心、習慣、人間関係、生き方まで含めた人生全体の質(QOL)を高めていく考え方らしい。
この視点から見ると、アシュタンガヨガを深く実践している人にとって、「ウェルネス」という言葉は決して新しい概念ではない。
心身の調和、内観、継続する実践、そして生き方そのものを整えていくこと。
それらは毎朝マットの上で繰り返し実践している、ごく当たり前の営みだと言える。
しかし、その「当たり前」をヨガの外にいる人へ伝えようとすると、ヨガの言葉だけでは届きにくいことが多々ある。
そこで、力を発揮するのが「ウェルネス」という共通言語だと思う。
ウェルネスという言葉は、医療、教育、企業、行政など幅広い分野で共有されており、宗教的・神秘的な印象を与えることなく、ヨガの本質を社会へ翻訳してくれる。
また、多くの人はヨガを「身体を柔らかくする運動」や「フィットネス」と捉えてしまいがちだ。
しかし、アシュタンガヨガの本質は身体能力を高めることではない。
身体を入り口として、呼吸を整え、心を静め、自分自身との関係を見つめ直し、人生そのものを整えていく実践と言える。
さらに、現代社会は「何かを足す」ことで健康や幸せを得ようとする情報にあふれ過ぎている。
一方、アシュタンガヨガが教えてくれるのは、余計な思考や執着、エゴを少しずつ削ぎ落とし、本来の自分へ還っていくという「引き算」の智慧である。
だからこそ、「ウェルネス」という言葉は、アシュタンガヨガの価値を現代社会へ伝えるうえで非常に有効な架け橋になるといえばなる。
ここで間違えてはならないのは、アシュタンガヨガはウェルネスから生まれたものではないということだ。
むしろ、古くから受け継がれてきたその実践の価値を、現代社会にも理解できる言葉へと翻訳しやすいものの一つが「ウェルネス」なのではないか。
ウェルネスは目的ではない。
アシュタンガヨガという実践が育んできた普遍的な価値を社会へ届けるための共通言語だ。


コメント